この家は群馬県の都市部郊外に建つ戸建住宅です。周辺には大きな川や河川敷、田畑や駐車場が広がる開放感のある場所です。この地域で育ったお施主様とそのご家族(+猫一匹)の家として計画しました。
設計・監理を通じてこの家の持つ「広がり」(敷地周辺の開けた環境と、それら取り入れようとL字型に広げた家の形、賃貸からマイホームを構えたときに生まれる生活スタイルや行動の広がり、地域の方々とのコミュニケーションの広がり)を何度も実感したため「広がりの家」と名付けました。
設計当初敷地として与えられたのは約1000㎡の水田でしたが、求められた家の規模は40坪程度であったため、将来的な土地利用も考慮し敷地を分筆、農地転用を経ての計画となりました。
そのためまずは1000㎡の土地をどのように分割し、家をどこに配置するかという検討から設計が始まりました。採光や通風、視線の抜けなどの環境面、不特定多数の人の出入りが予想される隣地との関係、地盤調査結果、新規インフラ引き込みにかかる費用などの比較検討の結果、水田を南北に分筆しその南側を今回の敷地と設定しました。
お施主様の生活スタイルや要望を考慮した上で建物配置や外部空間の異なる数案を提案し、打ち合わせを繰り返す中で敷地と建物の関係が絞り込まれていきました。
<配置計画>
敷地の北東にL型の平面を配置しました。L型は環境面のよい方角に開きその他の方向には背を向けています。
北・東面には工場があり不特定多数の人の出入りが予想されたため、開口部を必要最低限とした建物壁面や防風のためのRC塀で閉鎖的につくりました。
南面・西面は採光や視線の抜けなどを取り入れるため、できるだけ窓を設けテラスや庭と一体的に利用できるよう部屋を配置しました。また広い庭の半分をRC塀で囲みプライバシー重視の内庭と、街と接する外庭に分けています。
<平面計画>
1)快適で楽しい家
1階に家族空間を、2階には個室を設けています。間取りについての一番のご要望は共働きのご夫婦が家にいる時間を家族と快適に楽しく過ごせることでしたので、以下のポイントを念頭に設計しました。
・楽しさ→1階の家族空間をL字型にしたことで、LDKにたくさんのコーナーができました。(ストーブ周り、キッズコーナー、PCコーナーなど)家族がそれぞれ別の事をしていても同じ時間を共有できることを期待しています。またいろいろな部屋から内庭に出られるので、お子様たちはもちろん大人の動きや遊びが広がってほしいと思います。
・快適さ→開口部の配置計画で自然採光と季節風の取り込み、高機密高断熱住宅とし無駄なエネルギーを使わない家を目指しました。
・便利さ→家事のしやすい家にするため家事動線を確保し、収納計画と使い勝手を検討した上で作り付け家具をしつらえました。
2)長く住める家
・バリアフリー→敷地内のバリアフリー動線を確保し、引き戸を多用することで高齢化した場合の生活に備えています。
・可変性→子供が独立した後に個室を有効使用できるよう、2階ホールと2つの子供部屋を一体的に利用できるようにしています。
・メンテナンスコストの削減→建物外部はメンテナンスまでの時間を稼ぐためにガルバリウム鋼板の屋根・外壁材を用いる一方で、テラスやサービスヤードなどの外部空間は塗り壁や木材を使い親しみの持てる空間にしています。その際メンテナンス(塗装など)を考慮し足場を架けなくて良い範囲に留めています。
3)安全な家
周辺に対し良い環境は取り入れつつセキュリティは大切にしています。立地から考えると庭を高い塀で囲むよりも、緩やかな境界をつくり開口部の配置・種類、防犯カメラの設置などの設備で補うという考え方で計画しています。
<外観デザイン>
分筆した残りの土地への採光を考慮してL字型の北側は平屋建て、東側を2階建てとしています。
北方向からは不特定多数の人の出入りが予想されるため、閉鎖的にする必要がありましたが家族が帰ってくる方向でもあります。そこで窓を最小限に押さえた壁面と大きな屋根、防風のためのRC塀の組み合わせで立面を整えました。
1階は駐車場まで連続させて大きな屋根とし、2階は斜めにカットした台形の屋根(平面)とすることで2階のボリュームを軽く見せ北側立面をシャープに見せています。
(建物北側)
(建物北側)
(建物西側)西側道路から敷地に入ります。建物正面にプローチ(枕木)から段窓につながる帯をつくり線上に表札などをもうけました。夕日を浴びると壁は不思議な色に変わり、Low-eガラスを入れた窓が光ります。駐車場の外側には薪棚をつくりました。
(建物南西全景)周辺環境に対して開いているL型配置。手前のオープンスペースを外庭、RC壁で囲われたスペースを内庭としています。
(駐車場)駐車場の脇に玄関へ至る通路があります。外収納もたくさん設けました。
(内庭から駐車場を見る)外庭と内庭はRCの塀で隔てていますが、完全に塞ぐのではなく一部を開けたうえで、築山・植栽で心理的な境界をつくりました。今後植栽を増やしてもらう予定です。内庭にでるテラスは細長くて縁側のよう。玄関とリビングの両方に面して室内と庭をつなげます。テラス周りは塗り壁にして親しみの持てる外部空間にしています。
(内庭・サービスヤード)南側のサービスヤードは物干に使用するため、目隠しの格子をつけました。
(南道路から見る)前面道路側はRC塀を設けています。道路からは中は見えず、中からは外が見えるぎりぎりの高さに設定。
<室内>
(玄関土間)スノーボードのお手入れなどもできるよう広くとりました。ここから庭に出たり玄関収納を通ってリビングに入ったりと動線の重なる部分。玄関から奥のダイニングまで見通す事ができますが、来客時や冷暖房時のため引戸を設けています。引戸上部はガラスとし空間の一体感を残しました。
(リビング)玄関との建具を開けると庭の景色までを取り込む広い空間になります。
(リビング)玄関を入るとまずはTVコーナー。勾配天井の下がった落ち着くスペースです。ハンモックのフックを設けました。
(玄関〜キッズコーナー)L字型平面によって、ひとつながりの家族の空間にたくさんのコーナーができました。キッズコーナーの奥に和室が続きます。キッズコーナーは小さいうちはおもちゃを置いたり、小学生になったら机で宿題をしたり、と考えてつくりましたが予定通りに使ってくれるでしょうか。
(ダイニング)ダイニングにはたくさんの細々したものがあります。学校の書類や文房具、爪切りや薬、カメラやiPod・・・。その為大きな収納を設けて中を細かく区切っています。一部はパソコンデスクにするために階段の下部まで凹めています。
引っ越し後の写真を送って頂きましたが、お子様達が使ってくれている姿は嬉しいものです。家具が入るとずっとよくなりますね。
(和室)キッズコーナーの奥に和室があります。お昼寝スペースや客間として使います。建具を引き込むとキッズコーナーを介してLDKとつながります。
(キッチン)キッチンはL字型の重なる部分に位置しますので、LDの様子が見渡せる家の要です。子供達が小さい頃は見守りながら調理できるといろいろと便利です。
(トイレ・洗面脱衣室)水回りは床や什器に濃い色を使い他の室とはイメージを変えています。収納については打ち合わせを重ねました。階段下のトイレは天井高さに制限があるため、階段下部にニッチを可能な限りとり空間を広げています。
(階段)キッズコーナーの背面に階段があります。冷暖房時の効率のため階段にはカーテンがつく予定ですが、カーテン溜まりを壁の中に設けています。これはお施主様のアイデアでした。
2階ホール)階段を上がると小さなホールがあり、ここから個室に入ります。
(子供部屋)南に面して左右対称に。
(子供部屋)面積は大きくありませんがべット、机、本棚とクローゼットが作り付けてあるので広く使えます。子供っぽい要素がないので大人になるまでこのまま使ってもらいたい。年齢があがれば区切ることも想定しています。
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<検討案ピックアップ>
検討案A
検討案B
検討案C
基本設計にてB案に決定し、改良を加えて竣工にいたります。