アグリハウスは群馬県の北部に建つ戸建住宅です。大規模農家の広大な畑が広がる地域で、農業を営む若いご夫婦と将来のご家族の家として計画しました。ご家族の畑の一部を農地転用した上での計画でしたが、当初申請中だったため150坪という規模であれば、敷地の位置、形状さえ計画可能という自由な条件の中、設計が始まりました。
そこでまずは当該畑のどの位置に敷地を設定するかを検討し、隣接する防風林による風・西日対策の有効性、新規インフラ引き込みなどの周辺環境との関係から、畑の北隅に決定しました。次にクライアントさんの生活スタイルや要望を考慮した上で建物配置や階数、外部空間のとり方の異なる(敷地形状の異なる)数案を提案し、地域の風土(卓越風・積雪・日当たり)や周辺環境との調和を踏まえた相談を繰り返す中、徐々に敷地と建物の関係が絞り込まれていきました。敷地内の要望にとどまらず、実際の風向きや寒さ、周辺 環境との関わりについて考察し設計に反映することができたのも、クライアントさんの職業ならではの視点と自由な条件をもったこの計画ならではでした。
検討の結果、敷地を東西に長い矩形とし広い敷地を活かし南西に開いたくの字型の建物とし、1階には駐車場・アプローチとLDK+水周り、2階には個室を配した一部2階建てとし、赤城山に向かう方向に片流れの大きな屋根を架けました。
<コンセプト>
・周辺環境に対してなじむ家→山への勾配がある敷地形状を活かし、畑の一部が隆起したような形と色
雪や風を考えシンプルな建物と屋根形状とし、通風や眺めを考慮した窓やテラスの配置
・広い面積を活かした楽しい家→「家の中」から「家」を見る事ができるような、くの字の建物形状
・長時間快適に過ごせる家→冬季は家で長時間過ごす為、使い分けが出来るような動線と性格異なる大小の空間を設置
間取りについての一番大きな要望は、「長時間快適に過ごせる家」とする為の使い分けが出来る動線計画でした。クライアントの職業柄、 春から秋にかけては休日もなく、冬季は長期休暇という生活スタイルに加え、シーズン中は作業着で帰宅しそのまま浴室に直行するという毎日の行動から、普段は片付いているエリア(来客もOK)と多少散らかっていてもいいエリア(家族の空間)を明確に分けることが計画の基本でした。そこで玄関の脇に浴室とつながっている家族用の玄関を設け、そこからメインリビングを通らずに階段で2階の個室へと行く動線と、玄関を入りメインのLDKや和室へ行く動線とで構成し、その二つをつなぐ空間としてダイニング上部の吹き抜けに面するファミリーリビングや、階段踊り場のベンチスペースを設けています。
メインリビングを中心とした空間は玄関まで間仕切りがなく、吹き抜けを介した縦の広がりと、和室・テラス・縁側へ障子を介した 横への広がりがあるとても大きな空間です。その大空間をシーンに合わせて様々に使い分けが出来るよう、一部床の素材をタイル敷きにしたり 障子で和室や外部への広がりをコントロールできるようになっています。また障子やタイルなどは大空間において他の什器や素材とともに大切なインテリア要素にもなっています。 前出の小さなベンチスペースや片流れ屋根を活かし寝室に設けたご主人のロフトスペースや小屋裏の収納スペース、雨や雪のかからないインナーテラスや卓球も出来そうな駐車場など、性格の違う大小のスペースをたくさん設けました、大空間の使い分けとともに、どのように使いこなしていただけるか楽しみにしています。
建物の外部仕上げには寒冷地にも適したガルバリウム鋼板の屋根・外壁材を用い、土に近いこげ茶色としました。また外壁の一部とテラス・ 縁側の仕上げを耐候性の良いウリン材とし長期間のメンテナンスフリーを目指しています。駐車場やサービスヤードの間仕切りスクリーンは杉材のルーバーとしていますがメンテナンス(塗装)を考慮し足場を架けなくて良い範囲に留めています。 また高断熱高気密住宅とし土間コンクリートに電熱線を配する蓄熱式床暖房を採用しているほか、ヒートポンプ給湯器の採用、昼光利用や通風のための二方向開口の確保など、循環型住宅を目指した計画としています。
<外観>
外観は土が隆起したような形をコンセプトに設計しました。くりぬいてある部分は駐車場と人のアプローチとなっています。正面手前の木製スクリーンはサービスヤードや水周り空間の窓の目隠しであり、外観上のアクセントでもあります。くの字型の建物の外側のコーナー部分についており、金属の建物の出っ張りを見た目にやさしくカバーしています。
このアングルはクライアントさんの仕事からの帰り道の風景となります。手前にはクライアントさんのほうれん草畑(秋)がひろがります。
大きな通りから入った時に見えるこのアングルからの形が、この案に決定した要因となりました。くの字型の建物外形に、一枚の片流れの大きな屋根を架けています。当初建物に合わせくの字のセンターで屋根葺きの向きを変え、雨を防風林側に落とす計画でしたが、長期で考えより安全に一枚で架けました。そのため車と人のアプローチに大屋根の雨水が落ちてくることとなりますが、落ち葉が多いので樋はつけられず、大雨の日は反対側(南)から出てもらうことでクライアントさんのご理解もあり変更しました。
建物の東側に一部ウリン材のサイディングを貼りました。高い部分で雨もかかる部位のためメンテナンスがしにくく通常の木材は貼らないのですが、この樹種であればということで採用しました。インナーテラスのデッキも同じ樹種を使用しています。その他の木材(構造材やスクリーン)は杉ですが、ウリン材に合わせて調色しています。深みがあってとてもいい色です。
寒冷地ということで既製のサッシュを採用していますが、大きな引き違い窓を複数設ける場合、既製品の雰囲気と既製のサイズでうまくデザインしないと、味気ないばらばらな立面になることがあるのでいつも注意します。今回は上下を庇とウッドデッキで隠し、各障子(ガラス)のサイズをそろえ既製品のパーツらしさを目立たないよう気をつけています。
どの方向から見ても違う外観となりました。特に西側はとても小さい小屋のようで好きです。
<外部空間>
建物をくりぬいた部分は駐車場と人のアプローチ、建物脇のスクリーン内部はサービスヤードです。
くりぬいたトンネルによってさらに広がる風景の一部が切り取られます。どこを切り取ってもいい眺めなのです。駐車場の天井は当初梁の下に貼るはずでしたが、露出しても気にならないようなきれいな構造材だったため、可能な限り高さをとりました。駐車場の端のボリュームは収納スペースでたっぷり物が入ります。
建物の南にはインナーテラスとして取り込んだデッキテラスがあります。リビングと和室から出入りし、そのまま縁側としてリビングの南側に続きます。テラスと縁側は階段をつけて地面とつなげました。気持ちのいい場所なので、この階段に座って日向ぼっこをしたり、子供の遊びを見守ったり、そのまま外に飛び出したりしてもらいたいと思います。1段の階段ではありますが、これがないと大地につながっている「畑の一部が隆起したような形」とイメージが違ってきてしまう、大事な部分でした。写真右下はサービスヤード内部です、広さがあるので何かと使いやすい空間になりました。
<玄関~リビングへ>
玄関ドアを入ると外観のハードさとは対照的はやわらかいインテリアが広がります。玄関からリビングまで建物の南側に一間のタイルを敷きつなげていますが、くの字のコーナーで曲がっているため広がりと楽しさがあります。
コーナーを曲がるとたくさんの障子。障子の中に色を入れるというのはクライアントさんのアイデアでした。この家のインテリアのテーマカラーはグリーンで、あちこちにいろいろは色味のグリーンが使ってあります。クライアントさんも私もとても好きな色でしたので、とてもスムーズに決まっていきました。障子を開けると縁側のある外部と大きくつながります。南側をタイル敷きにしてあるのは、玄関からの一体感もありますが、リビングの一部を土間のような半外部空間とし、広いリビングの一部を使い分けるためです。さらに寒い時期には日射を蓄熱し、コールドドラフトを緩和するという狙いもあります。
LDKにつながる和室の障子には柿渋の色味を使っています。グリーンと2色使うのは迷いましたが、使ってみるととてもやわらかい色で問題なく、天候や時間によっての変化や、障子を重ねたときの微妙なグラデーションはとてもきれいでした。タイルとの組み合わせも自然で、改めて障子という建具の素晴らしさを感じました。
LDKのなかにはオープンなキッチンとおそろいのダイニングテーブルがあります。こちらもグリーン(オリーブ色)。ダイニングテーブルの上が吹き抜けになっており、2階のファミリーリビングとつながっています。ファミリーリビングは子供の勉強机やおもちゃなど、すこし散らかっていてもいい空間ですのでダイニングからは見えないようになっています。パントリーの上には、階段を3分の2まで上った踊り場がありベンチが設えてあります。ここでどんな会話があるのかな、と考えながらつくりました。
<和室>
3本引きの引き戸でリビングとつながったり仕切られたりするこの和室ですが、少し気分や視線に変化が欲しいので少しだけ床を上げています。階段一段分ほどのことですが、フラットな仕上に比べとても効果があります。テラスにもつながっていますが、インナーテラスの分奥まっているためリビングとは光の入り方が違い、晴れた日も落ち着いた雰囲気となりました。
パイプスペースの壁にブラケットをつけ、地窓の上にもほんの少しの棚を設けています。床の間もありますが、日本の飾り物って小さくてかわいいものが多い気がしますので、旅先で買った小さなものなどを置いたり吊り下げたりするスペースとして使って欲しいと思います。
<家族玄関・洗面脱衣室>
玄関に入り、左の扉を開けると、家族用の玄関があります。正面の壁を迂回すると洗面脱衣室があり、浴室に直行できます。
家族玄関の収納は現場で家具を造作することも出来ましたが、一旦造りつけてしまうと、家族の変化に対応できないことがありますので、壁にレールを取り付け棚板を増やしていくシステムを採用しました。このインパクトのある壁紙もグリーンです。家族玄関には窓がないのですが、明るく感じたのはこの壁紙のせいかもしれません。右の写真の通路から先が洗面脱衣室です。
家族玄関の正面の壁に沿ってまわると洗面脱衣室となります。長さ2.6mの長いカウンターの上に洗面器が据え置いてあり、アイロンがけなど洗濯関係の家事はここでも出来るようになっています。浴室の正面もグリーン。このメーカーの浴室は壁の色を4面それぞれ違う色にでき、バリエーションは多くはありませんが、もともと京都の製作所のせいか(?)どの色もとてもきれいでしたので、フルに4色を採用しました。これはメーカーさんでも初とのこと!クライアントさんも面白がって了承してくれました。右の写真は洗面室から廊下を経てキッチンを見た所。
<トイレ>
くの字がたのコーナー部分に位置するトイレは三角の平面となっています。面積は広いけれど、デットスペースが多いような、しかし中に入ってみるとまた広がりを感じるような空間となりました。2箇所の鋭角コーナーに手洗器と収納を設置。当初トイレでマンガを読むという計画もありました。
<階段・踊り場>
この家は玄関から家族の空間を通らずに個室に行けるようになっていますが、その分家族の声や気配が感じられるように工夫しています。階段はキッチンに面していますが、キッチンと階段の間仕切りは木製の格子になっており、キッチンの階段側には奥様用のデスクが置かれる予定です。またこの格子はキッチンの明り取りにもなっています。
階段を3分の2あがると大きさ一坪の踊り場に出ます。ここは読書家のご主人や子供たちが本を読んだり、昼寝をしたりすることを想定してつくりました。子供は階段が好きなので、こんな場所があればきっと気に入ってくれると思います。ベンチの下は収納スペースです。
踊り場からはダイニングテーブルやキッチン、リビングが見下ろせます。この家の中で私が一番好きなスペースとなりました。
<ファミリーリビング>
踊り場から3段上がると家族用のリビングがあり、吹き抜けごしにメインリビングとつながっています。子供や家族の勉強スペースとしてデスクや共有の本棚を置き、一部は家族のギャラリーとして写真や絵を飾ります。また各個室への入り口でもあります。廊下の突き当たりは少し暗いのですが、あえて濃い色の壁紙を使い立ち並ぶドアを壁になじませたいと考えました。
<寝室>
ベットを置く前提で天井の低い部分を設け、その上をご主人の趣味の空間としています。ロフトとしての位置づけですが、片流れの屋根から生まれるスペースも使っているので高さもあり使いやすくなりました。
ロフトの奥にも更なる収納スペースがあります。
<子供部屋>
将来的に2つの部屋に分けられるよう、ドアも窓も対称に配置しています。この部屋だけは、将来のお子さんの趣味に合わせてカスタマイズできるよう、とてもシンプルに、ニュートラルにつくりました。
<小屋裏収納>
1階の廊下の天井にははしごが隠れています。上にはやはり、屋根形状から生まれるスペースを使った収納スペースが。小屋束が乱立していますが収納には問題ありません。ここも子供の遊び場には楽しい空間です。普段目の届かないスペースなので、結露が心配で窓は設けていませんが、窓があったら屋根裏部屋として普段使いにもいいな思います。
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<検討案ピックアップ>
検討案A(平屋)
検討案B(中庭付平屋)
検討案C(一部2階)
基本設計にてC案に決定し、改良を加えて竣工にいたります。