還暦も近い団塊世代の夫婦の為の家です。施主夫婦は今までいくつかの家に住んできましたが、環境変化の中、この土地を永住の地と定めました。施主の終の棲家となるこの家に求められたものは、施主らしさを感じられる落ち着きと強さのあるデザインと、定年後の人生に対応できる多様性のある空間づくり、そして長い時間、家族の基盤となり続けられるような強い家を創ることでした。
◇デザイン
施主はデザインに携わるお仕事をしているためデザインへのこだわりが強く、インパクトがありつつも落ち着きのあるデザインを長い時間をかけて検討しました。その結果、RC壁・ガルバリウム鋼板などの現代の素材と大屋根・深い軒・和風庭園など和風のエレメントを組み合わせ、印象的な門扉(施主デザイン)やガラスブロック・建物から突き出したテラスなどを加えたデザインとなりました。外壁材のカラーは施工直前まで迷いましたが、建物としての存在感・庭や風景とのコントラストを考慮しブラックに決定しました。
◇空間
建物の中に性格の違う4つの外部空間を取り込み、それらを中心に居室が配置されています。全ての居室が庭に面し住宅内の移動に伴う景色のシークエンスが空間に変化を与えます。取り込んだ外部空間に加え多数のトップライトを設けたことで、家中どこにいても光と風を感じられる気持ちのよい空間となりました。また定年後の様々な生活シーンに対応できるよう、空間構成・規模に余裕を持たせており、施主の高齢化に伴う生活の変化や家族構成の変化によるリフォームを想定したプランとしました。インテリアデザインは自然素材を多く用い、落ち着いたしつらえをベースとしています。
~4つの外部空間~
アプローチ:建物内に引き込んだ通り庭は来客の対応やミーティングもできる外向きの空間にしました。
坪庭・庭園:玄関・和室の前に広がる和の庭は来客をもてなす空間です、和室2方向を庭で囲み離れのような印象の空間としました。
テラス :隣地に広がる公園の池はこの土地を選んだ理由でした。家と自然とをつなぐテラスは家の中に季節を感じさせます。
中庭 :ダイニングと一体に使用するフレキシブルなプライベートな空間です。
◇住宅性能
サスティナブルな建物としてメンテナンスが最小限となるよう、材料・構造に配慮しました。外壁と屋根にはガルバリウム鋼板を、雨のかかる外部デッキには対候性の優れたウリン材を使用しています。また快適な高気密高断熱住宅とするため細部にわたり配慮しています。
<外部空間・外観デザイン>
この敷地は地区計画で群馬県産の構造材の使用を定められていた場所でしたが施主はRCの家にしたいと考えていました。そこで見た目にはRCの壁を道路側前面に立ち上げその上に軸組みを乗せた混構造(構造計算は在来軸組工法のみ)としています。この家を特徴付ける屋根は、施主も私も大きな屋根が好きだったこと、今回のプランで架ける大屋根とRCの壁とのバランスがよく風格のでるデザインになったこと、などの理由から大屋根を採用しました。また門扉は施主のデザインです。
駐車場のシンボルツリーはヒメシャラ。桐生まで探しに行きました。
坪庭にはつくばいを設け和のしつらい。詳細は造園業者に依頼しすばらしい庭になりました。
<アプローチ・通り庭・スタジオ>
アプローチから左右に住宅と仕事場にアクセスします。たっぷりしたスペースで来客に備えたり自転車を置いたりとフレキシブルに使っており、玄関周りの雨に濡れないスペースは快適です。スタジオは道路からのファサードを優先しハイサイドライトとトップライトで明るさを確保しています。
<玄関・和室(ゲストルーム)>
外部の質感とは一変し、和の質感あふれるスペースです。玄関ドアを開けると坪庭が開け開放感と季節感を感じます。塗り壁や天井に張ったヒノキ材など材料を厳選し、もてなしの心使いを感じられるよう設えました。和室は従来真壁和室とし、障子のデザインで施主の個性を主張したいと考えました。
<リビング・テラス>
ウェルカムリビングとメインリビングと名づけられた二つのリビング。ウェルカムリビングはテラスに面しており、隣接する公園の池の揺らめきが反射して入り込み予想外の空間になりました。
テラスは洗濯干しや子どもの遊び、ホームパーティなどに使われ大活躍しています。
<中庭>
完全にプライベートの中庭は、開け放してダイニングと一体に使用します。現在は植物や金魚がいる和みのスペースです。一番長い時間を過ごすダイニング(茶の間)からガラスブロックを通してアプローチの雰囲気を感じられるので、安心感があります。
<その後>
シンボルツリーや庭木も育ちしっくりと落ち着いてきました。
庭木は日本の樹種が多く、設計当初の現代の素材(ガルバリウム鋼板・コンクリート)と和の要素を合わせるという考え通りの姿になりつつあります。