O-houseは群馬県の北端の地域に建つ店舗併用住宅です。ご夫婦と3人のお子様の家と、奥様のお仕事である理容室を併用する計画です。敷地は貯水池に面し、池にかかる大橋を望める眺めのいい場所ですが、スキー場が多くあるような冷え込みや降雪のある土地でした。
計画にあたり、周辺環境に恵まれていること、ご近所や親戚との付き合いが多くいつもにぎやかな家であること、理容室を設けること等の点から、周辺に対しオープンな計画とする事、またお子様がまだ小さいという家庭環境から必要に応じて安全性を高められることに主眼を置きました。また、なるべく雪かきが不要になるようなプランや屋根形状、寒くない家が欲しいという要望も重視しました。
1階に店舗、LDK+水周りを配置し、その南及び西側にウッドデッキテラスをL字に設けました。ウッドデッキを部屋の延長として、またアプローチとして活きた空間にするために、1間分セットバックさせ、直行方向に並ぶ短い壁で上階を支持しています。この壁は、構造的な耐力壁であると共に、LDへ光を届けつつも前面道路からの目隠しや心理的な境界線にする為の壁であり、並列した店舗部分と住宅部分を分ける壁でもあり、また外観デザイン上のアクセントでもあります。この部分の仕上げには外壁面・天井面共に松板貼りとし温かみのあるスペースとして他の部位とは変化をつけました。
2階はリビング吹抜け周りに個室と大きな子ども部屋、バルコニーを配し、雪を落とす勾配の片流れの屋根により生まれた小屋裏収納スペースと合わせ回遊性のあるプランとしました。子どもが独立した後の使い方も踏まえ、子ども部屋には中心に独立柱を設け、必要に応じて簡易な間仕切りで済むようにしたり、将来リビングや吹き抜けと一体のホールとして開け放しで使えるような想定をしています。また冬季には吹抜けを洗濯干し場する為、吹抜け・窓やバルコニーとの関係も検討を重ねました。
外壁南面は国道からよく見えるため店舗併用という性格もあり、引き違い窓ではなくスリット窓と取り込み型のバルコニーのみのシンプルな構成としました。降雪など環境の厳しい場所を考慮し、雨がかり部分はガルバリウム鋼板を採用し、木貼りのウッドデッキ・バルコニー廻りとの組み合わせました。竣工時のウッドデッキ・バルコニー周りの木部はクリア+こげ茶という色ですが、将来的に違う色を塗ることも想定した上でまずは素地の質感や経年変化を楽しむ為、この色合いが決定しました。
※ウッドデッキは今後設置される予定です。
<外部空間・外観デザイン>
木材は暖かさや経過の楽しみもあり積極的に使いたいのですが、金属などに比べメンテナンスが必要な素材です。クライアントさんのご理解があった場合、メンテナンスしやすい箇所に設ける(大掛かりな足場が要らないよう低い位置にする)ように配慮していますが、今回も1階周りの屋根のある部分のみに採用しています。
尾瀬大橋とO-house
住宅アプローチ
店舗アプローチ
左が住宅へ、右が店舗へのアプローチ
テラスに面する掃き出し窓は防犯上雨戸付。戸袋には外壁と同じものを貼る加工をしました。
<リビング・ダイニング・キッチン>
この家は寒くない家を目指し、断熱気密性能を高めた上で2台の蓄熱暖房機を採用しました。家の使い方によって暖房効率をコントロールできるよう、間仕切りをかねた建具で空間を分けています。この建具の格子の横桟、吹き抜けを介した子供部屋の建具の格子、階段の縦格子、また2階バルコニーの縦格子、それぞれの間隔を同じとすることで、家全体のインテリアをまとめました。
リビング
こいずみ道具店の革の引き手です
ダイニング
<吹抜け周り>
リビングの上には大きな吹抜けと、それを囲む廊下があります。廊下に面して、寝室・子ども部屋・バルコニー・小屋裏収納を配置し回遊性のあるプランになりました。寒冷地で大きな吹抜けを持つ家として蓄熱暖房機を採用し、必要に応じて扉を開け閉めするという方針でしたが、一冬越えてみると、これらの引き戸を開け放した大空間でも2台の蓄熱暖房機でまかなえたとのこと。
また小さなお子さんやそのお友達の行動を考え、手摺は間隔の狭い縦格子とし、目にわずわらしくならないようホワイトで塗装。その上に木製笠木を付け安全性と手触りを優先しました。
冬季使用に備え物干し用パイプを同じくホワイト塗装とし、お施主さんの身長に合わせて取り付けました。
<寝室・子供部屋>
寝室は防犯重視とし、引き違い窓ではなく縦スリット窓としました。
子供部屋は将来の可変性を持たせたつくりとしました。独立柱を手がかりとした簡易な間仕切りで収納スペースをつくり2部屋に分けて使うことや、子供が独立した後リビングや吹き抜けとつながった空間として使用できるよう、位置や建具を決定しました。
<小屋裏収納・バルコニー>
雪を落とす勾配をとる為に生まれた小屋裏収納のスペースは結果的にかなりの収納量のある部屋になりました。天井の低さや合板仕上げで居室とはまた違った落ち着きがあり、個人的に好きな空間です。またライフスタイルの変化に対応するため、一部を一時的に居室にもできるような設備も設置しています。この部屋には子供部屋、2階ホールにつながるドアがあり、吹き抜けを中心に回遊性のあるプランになっています。バルコニーはウッドデッキ周りと同じく木貼りとしました。今は毎日の洗濯干し場ですが、子供が大きくなった頃には、いろいろなことに使ってほしいスペースです。
<玄関・店舗>
玄関を含めた多くの窓から、周辺の緑を取り入れることができます。また店舗は設置予定の器具や什器に合わせた色・素材を採用しました。
<その後>
竣工後まもなく寒い季節になりました。ウッドデッキ工事は来期の予定、デッキ周りの木貼り部分の経年変化も楽しみです。
2009年夏。竣工から1年足らずですが、工事が間に合わなかったウッドデッキができたというので遊びに行きました。
建物の1階、南~西面にかけてウッドデッキと、木張りの壁・天井に囲まれた空間がL字に配置され、当初のコンセプトであった来客や近所や親戚の人を受入れ安い形が完成しました。
まだ営業はしていませんが、内部の設備も整い近々理容室をスタートできるとの事。一番手前の壁に看板がつく予定です。
店舗のアプローチもいい雰囲気になりました。店舗の内部はコンパクトに作っているため、こちらのデッキでちょっとしたお話や見送りなどを通していいコミュニケーションが生まれるといいなと思っています。
左が住宅部分のアプローチ、右が住宅部分のデッキテラスです。手摺がついたり家具が置かれていたりと、いろいろとカスタマイズされていました。また写真は載せていませんが小屋裏収納の中に立派な個室ができていたり、理容室が着々と準備されていたりと、こういう暮らしの断片を感じられるのはとても嬉しいものです。さらにどんな風に変わっていくのかを楽しみにまた伺いたいと思います。