~辻に建つ家~
<辻(つじ)とは、2つの道路が十字形に交差している場所をいう。「十字路」は同義語>
S-houseはさいたま市の住宅街に建つ戸建住宅です。十字路の角地に建ち、対面に児童公園という恵まれた立地の中にご夫婦と2人のお子様の為の住宅を計画しました。
十字路(辻)を介して、公園からの日照・通風などの環境面や、開放感・夕焼け・コミュニケーション(公園で遊ぶ子供を確認できることや、人を招けること)など楽しさを、どれだけこの住宅に住まいに取り込めるか。また同時に公園を訪れる不特定多数の人から住まいの環境をどのように守るか、という両面をテーマに構成しました。
最終的には、公園に向かってL字型に開く住宅配置、公園から人の視線や侵入を防ぐ緩衝スペース(テラス)、駐車場の3段構成で公園と距離を保ちながら、良いものを取りこむ計画としています。
また住宅は家族の生活の場である為、今後の様々なシチュエーションに対応できるよう動のエリア・静のエリアに分けて計画しました。動のエリアはDENを中心とし各スペースを回遊できる平面計画であり、DENは意匠的・精神的に家族の中心となるよう、「籠もれる」大きさのスペースを板張りの壁で囲い、階段や家族の勉強スペースを備えました。静の空間には真壁造りの和室を設え、生活空間からは切り離しています。日本古来の節句や行事を楽しんでもらいたい空間です。
公園からのクッションスペースとして用意したテラスは、壁(窓)と木ルーバーに囲まれ、リビングの一部としても庭としても使える多目的な半屋外空間で、この住宅を特徴付けるスペースとなっています。
<外部空間・外観デザイン>
公園からの関係をもちながらも距離を確保する為、家の公園側(テラス)を木製ルーバーで囲いクッションスペースとしています。外部仕上げは相談の結果、メンテナンスの頻度を減らす為ガルバリウム鋼板を採用し当初求められていた柔らかさを出す為に、木製ルーバーや、木張りのバルコニーを浮かして設けています。さらに園芸やガーデニングもお好きとのご夫婦でしたので、敷地廻りは塀でなく花壇をつくりました。植栽が育ち木のルーバーとも相まって公園からの良い目隠しになり、また家全体を柔らかく見せてくれる事だと思います。
公園で遊ぶ子どもの姿を確認できたり、緑を感じられたりするバルコニー。公園側に沈む夕日も眺められます。
<リビング・ダイニング・DEN>
DENを中心に据えた大きなワンルーム(テラス含む)に、ギャラリー、リビング、ダイニング、キッチンを配置しました。DENにはPCコーナーや2階への階段入り口もつくり、家族の中心となり集う空間とするためクライアントさんといろいろなアイデアを出し合いました。座卓式のPCテーブルや、リビング側に足を投げ出せるコーヒーテーブルを兼ねた手摺、床暖房・・など。もともとインテリアのお仕事をされていた奥様との打合せは勉強にもなり楽しいものでした。壁仕上は羽目板張りで温かさを感じられるように。
リビングの南にある大窓は道路に面するため、ミストガラスをいれ外側に木を植えました。ミストガラス越しの透けた木の見え方は額装された幻想的な絵のようで、リビングのアクセントになりました。個人的にもとても好きな場所です。大窓周りには吹抜けがあり、吹抜けの左右には2つの子ども部屋が対象に配置されています。子ども部屋の造作家具の一部がリビングに通じる小窓になっており、ここからコミュニケーションが生まれることを想像しながら計画しました。
回遊性のあるプランでは一部に廊下ができてしまいます。ここでは廊下を1間に広げギャラリー件ピアノ置き場という機能を持たせました。この程度の広さは通路+αの空間としてとても使いやすいという発見がありました。
<キッチン・ユーティリティ・トイレ>
リビングからみてDENの裏手にはキッチンを配置しました。ダイニングとは一体ですがリビングからは隠れて見えず、少し隠したいキッチンには適した位置となりました。キッチンは隣地の住宅が迫っていた為、腰窓ではなくトップライト窓を設けました。キッチンの奥には洗濯機や収納のあるユーティリティ、さらに洗面室へと続きます。水周りは奥様のこだわりとアイデアが満載の空間になりました。トイレの手洗い器前面の壁にはタイルと同じ大きさの支給品の石を取り付け、素敵なコーナーになりました。
<和室>
回遊性のあるLDKとは距離を置いた静かな空間として、真壁つくりの和室を作りました。客間として、季節の行事を楽しむ場所として使って欲しい空間です。
<寝室・子ども部屋>
寝室の隣には小屋裏スペースを利用したスタディルームがあります。屋根勾配にあわせて低くなる天井とトップライトがスタディルームへ続いていきます。最初から用途が決まっている部屋に加えて、このような小さいスペースがいくつかあることによって、使い方に余裕が生まれ、将来的なライフスタイルの変化にも対応できると考えています。
2つの子ども部屋はリビングの吹抜けを挟んで、対象に作られています。大きな部屋ではないので吹抜け(当初屋根までの予定だったが)を途中までとし、その上にベットスペースを造作しました。ベットの下に作った収納の一部がリビング吹抜けへの小窓となっています。左右対称の間取りの為、一方の部屋の小窓から、吹抜けを介してもう一方の部屋の小窓が見える仕掛けです。お子様が大きくなったらふさがれてしまう可能性もありますが、あえて扉はつけないことになりました。
<その後>
竣工後2ヶ月でお邪魔した際にも、家のあちらこちらにディスプレイがあり、植栽も増えていて、楽しんで頂いているのだなあと嬉しくなりました。
さらに半年点検で伺った時には新緑がとても元気で綺麗でした。この家は境界線に塀がないオープン外構の形のため、建物と敷地をつなぐ部分に植栽があると風景の中に家がなじんできたように感じます。